今回のA北米型とでも呼ぶべき新型インフルエンザについて
洲本市医師会 危機管理委員会
 今回の新型インフルエンザは豚由来のインフルエンザウィルスと言われています。インフルエンザはRNA型の遺伝子をもったウィルスで、今回騒がれている新型インフルエンザは8本のRNAのうち、6本が北米の豚(これはもともと人と鳥のインフルエンザウィルスが豚の気道上皮細胞内で遺伝子が混ざり合ってできた遺伝子集合体から発生したといわれています)、2本が欧州・アジアの豚インフルエンザウィルスのRNAでした。
 こういった新型インフルエンザは一回の流行で消え去るのではなく、今後は今回の第1波に続き、第2波、第3波と流行を繰り返しながら、毎年冬場に流行している季節性インフルエンザ(A型とかB型インフルエンザといわれているものです)と置き変わってゆく可能性が高いとされています。通常の季節性インフルエンザ(seasonal influenza)でも毎年日本で1〜1.5万人程度が肺炎などを合併して亡くなる方がいるのですが、1957年のアジア風邪は致死率0.5%, 1968年のホンコン風邪は0.3%、1918〜1919年に流行し第一次世界大戦を終わらせる直接のきっかけになったと言われているスペイン風邪は2%位とされていますが、スペイン風邪のころは抗生物質が普及しておらず、亡くなった方を解剖して調べた例でほとんどが2次性の細菌感染であったことが指摘されています(インフルエンザそのもので亡くなったのではなく、こじらせて肺炎を合併して亡くなった方がほとんどだということです)。今回の新型インフルエンザはH1N1型という、鳥インフルエンザとは異なるタイプで、感染力は強いもののその致死率は0.1〜1%の間に落ち着くものと見られています。インドネシアなどで問題になっている鳥インフルエンザにかかった人の致死率は60%とも70%とも言われていますから、今回の新型インフルエンザは、鳥インフルエンザとは比べものにならないくらい弱毒性ということになりますね。潜伏期は長くて7日間とseasonal influenzaよりやや長めのことがあり、日本人では1割程度に下痢、嘔吐などの消化器症状がみられることがあります。これは民族によって差があります。感染者の中心は5歳から20歳で、50歳以上はかかりにくいようです。
 本来WHO(世界保健機構)が有効性を否定している新型インフルエンザに対する国を挙げての水際作戦をやる前に、国内の医療体制をもっとしっかりと整えるべきであったと考えられます(家のなかに蚊がいっぱいいるのに、玄関をいっぱい開けて玄関際で家の中に入ってこようとする蚊を捉えようとしているようなもの)。5月17日の日曜日にすでに神戸では感染症指定病院である中央市民病院の感染病棟がベッド不足でパンクし、病室内が陽圧でなくて本来感染症患者さんに対応できない一般病棟を新型インフルエンザの患者さん用に使って患者を診ており、他の病気の患者を受け入れられなくなっているのが現状でした。これが致死率60%を超えるような鳥(新型)インフルエンザであったらどうなっていたのか、想像するだけでも背筋が寒くなります。淡路の医療圏域では感染症指定病院は県立淡路病院ですが、新型インフルエンザ発生時に高病原性インフルエンザを想定してつくられたガイドラインに沿って医療を行おうとすれば、新型インフルエンザがでてもベッドは4床のみであり、一人でも患者さんが発生した時点で発熱の前日から排菌しているインフルエンザでは、すぐに数十人の患者さんが発生する可能性が高く、県立淡路病院の一般病棟にインフルエンザの患者さんを入院させるには入院中の患者さんを他の病院に転院させる必要がありました。淡路島のような地域社会では重症な患者さんのその受け入れ先が足りず、島内の医療が崩壊するのが分かり切っていたため、洲本市医師会では洲本健康福祉事務所(保健所)の理解,協力を得た上で、新型インフルエンザでも肺炎や呼吸不全、意識障害を来した脳症のような重症患者さん(このような方は県立淡路病院で対応)でない限り、一般の患者さんとは診察用の部屋や時間を別にするなどして、一般の診療所で通院での診療・加療が行えるよう、体制を整えました。今回の件で大変なご尽力を賜りました保健所長の柳先生に深謝いたします。今回の神戸での新型インフルエンザ発生のピーク時には、患者数が多すぎて新型なのか通常のA型インフルエンザなのかを決定するためのPCR法という検査方法が物理的に実施不可能な状態になっていました。淡路島では臨機応変、柔軟に保健所と連携を取りながら,最初の相談窓口(電話相談)は保健所、もしくは市内の協力診療所で直接電話相談を受けることが出来るようにし,島内の医療崩壊が起こらないような対処がとれたと考えております。
 今回の新型インフルエンザの第2波が秋に来るのか,冬に重なるのか大きな問題ですが,現時点ではむしろ通常のインフルエンザよりも抗ウィルス剤が効きやすく、また罹っても軽症で自然に治癒する例もあるくらいですので、マスコミの過度の報道に惑わされないように冷静に対処していただきたいと思います。
 学生さんの場合は,微熱でも新型インフルエンザ流行期には直接学校には行かず,まず病院や保健所に連絡して疑わしければその日は自宅で安静にして、インフルエンザ検査キットで90%近くが判明する発熱の翌日に再度病院や診療所を受診して検査を受けることが大切です。発熱の1日前からそして解熱後2日間は患者さんはウィルスの感染源になり得ることを知っていてください。
 感染予防に大切なことは,発熱のある方やくしゃみ・咳をしているかたは,咳エチケットとしてマスクの着用をきちんとしていただくこと、ドアのノブや電車のつり革などからの接触感染することが多いことも指摘されておりますので,30秒以上を目安とした石けんや手指の消毒薬をつかって指と指をこすり合わせるようにして十分な水ですすぎながらの手洗いが非常に有効です。
クリックすると大きな画像で表示されます。お願い 流行が懸念されているインフルエンザ蔓延防止のために
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